Guest:竹本健一さん / Text:中﨑史菜

単純に楽しんでいる状態が仕事に

自分で歌うだけでなく、楽曲提供はいつ頃からされていたんですか?

「PHONES」で活動していたときからですが、ソロになってから本格的に始めました。

2011年ごろから、竹本さんの楽曲が有名アーティストに歌われる機会が増えていますよね。
何か転機があったのでしょうか。

大きなターニングポイントがあったわけではなく、長い間コツコツ書いていたら少しずつ採用されるようになった、という印象です。

強いていうならば、世界の作曲家たちとコラボレーションする機会を得たことは一つのきっかけかもしれません。「ソングライティングキャンプ」と呼ばれる、チームで1曲を完成させるイベントがあるんです。一人で作曲するときとは違って、隣に「そのメロディいいやん!」と言ってくれる人がいるので、作曲のスピードが格段に上がります。

ソロミュージシャンとしての活動と、作曲家としての活動、どちらをメインに据えておられますか?

ソロミュージシャンとしての活動をメインに考えています。

楽曲提供だと、依頼者からのオーダーに応える必要があるし、そのオーダーがメジャーを意識してたら、流行ってるものを追いかける必要もあります。それは少なくとも自分がやりたい音楽とは違うこともあるんですよね。

最近の世の中は、どちらかというと売れるものよりも「自分の好きなもの」を作るべきだという風潮にもなってきてます。それもあって、今、僕は売れてるわけじゃないけど、やりたい音楽を作って、作品にしてライブができてることはすごい幸せだなと思います

「好きなことを仕事にする」ことには、いろんな考え方があると思うんです。竹本さんが、それを幸せと感じられている大きな理由は何なのでしょうか。

「好きなことは趣味のままの方が良い」という人もいます。その方が、純粋に楽しめるという考えですね。僕も音楽を仕事にしながら、趣味だったらどんなに楽かと思うこともあります。仕事となると、生活のことも考えなければいけませんしね。でも、どっちが正解かはわからないです。

僕にとって、音楽をすること自体に意味があるのではなくて、音楽を通じて「自分の中に湧き出てくるイメージを表現したい」とか「誰かに聴いてもらいたい」というその先の願いがあるわけです。そういうのがある限り、音楽をやりたいんですよね。そういうのがなくなってしまったらきっと、別の道を考える必要があるのかもしれません。

今は音楽の先にあるものが見えてるから、それを叶えるために音楽を続けておられるということですね。

僕が音楽を仕事にし始めた時から変わらず、仕事だと意識しない、単純に楽しんでいる状態が仕事になっている、ということもあるかもしれません。

音楽の対価としてお金をいただくって、小さいときに自分の部屋で歌われていた時とは違う状況じゃないですか。その「対価をもらうこと」に関しては、どう考えておられますか?

好きなことをやっている人って、自分の納得がいくハードルが自然と高くなると思うんですよね。自分の満足度を越えようとするだけで、十分にお金を払う価値のあるものが出来上がると思います。お金をもらうから頑張らないとって思っているというのは、ちょっと違う気がします。

そっか。音楽自体を楽しむスタンスは、小さい頃歌っていた竹本さんと変わらないということですね。

僕には、大きなステージで歌うことやツアーをやるイメージはないんです。今のこの状態が続いていけばなあと思っているんですよ。やりたい音楽が常に見つかってて、それを作れて、聴いてくれる人がいる状況が続けばいいなって。

もちろん、音楽を作るために楽器も機材も欲しいですけどね。強いていえば、そういうものが自由に使える環境になるのが理想かな。

好きな人と仕事をする

音楽をされている中でいろんな人と出会うと思うんですが、人間関係で気をつけていることはありますか?

基本的に、みんなと仲良くしたい。人間関係に荒波は立てたくないんですけど、感情がすごい顔に出るらしく、交友関係はあまり広がりません(笑)。それぞれ、相性ってあるじゃないですか。だから無理に人と仲良くなろうとしなくていいのかなって思います。

自分の人生において大きな役割を果たしている出会いはありますか?

高校生からずっと、アーティストのCharaさんの大ファンでした。それがついに、一緒にお仕事できるようになったんです。

コーラスレコーディングのお仕事が最初でした。好きな人と仕事ができるって最高じゃないですか、いつ死んでもいいっていう感覚。その上、自分のアーティスト活動もチェックしてくれて、「こんな曲歌ったらいいんじゃないの」って時々LINEで曲のリンクを送ってくれたりするんですよ。自分にはこういうの合うよなって思える、すごく納得するものを送ってくれるんです。

去年出した「TURN」というアルバムを作ってる最中に、実は「これを自分の最後のアルバムにしようかな」って思っていたんです。コーラスの仕事もあるし、歌を教えたりもするし、自分のアーティスト活動をしなくても、今後音楽に携われるだろうと思って。

でも、そんな時にいただいたCharaさんからのメッセージがきっかけで、アルバムができあがった頃にはもう「次こういう音楽がやりたい」というイメージができていたんです。令和に代わったその日に、Charaさんとセッションしたんですけど、新しい自分が生まれたような、そんな気持ちになりました。振り返った時に大きなターニングポイントになるんじゃないかなって思います。

感動だなあ。私が福山雅治と共演してるような感じですよね…(笑)

そうです。やばいですよね。いつでも死ねます。

自分が好きなものを世に出していくに尽きる

「竹本健一さんのお仕事はなんですか?」と尋ねられたら、どう答えますか?

そうだなあ。自分がやっているのは、ラジオDJみたいな感覚だと思ってます。こんな音楽どうですかってリスナーの皆さんに聴かせてあげたいというか。

こんな音楽どうですかと世の中に提案して、そこに反応が返ってくるってことでしょうか。

選曲の軸は自分が好きかどうか。だから反応を求めているというよりは、自分が好きなものを世に出していくに尽きます。音楽の力で社会に貢献したいなんていう思いも若干はありますが、根本は自分が好きかどうかです。

私は書くこと自体よりも、書いたもので反応がもらえることが嬉しくてこの仕事を続けています。竹本さんの”ラジオ”にはリスナーがいる限り、必然的に反応が返ってきますよね。思った通りの反応がなかったり、あるいはネガティブな反応があった時、どう消化されていますか?

よく歌詞を間違えるので、それに対して厳しいこと言われてトラウマにはなりました。「もうあなたの音楽は聴きに行かない」って言われて、「どうすりゃいいんだ!」って思いましたね(笑)

逆に自分が想定していなかった部分を評価してくださる方がいれば、自分が気づいていなかった自分の音楽の良さに気づけるチャンスですよね。出来がよくないと思ったライブで、「感動しました」って言っていただくことも多くて、感動と必ずしも出来はリンクしないんだなって思うこともあります。

なるほど。反応に対して「まっすぐ向き合わなくちゃ」と思いがちだけど、そうやってうまく自分に取り込んでいけばいいのか…。
小さい時から、竹本さんの隣には音楽があったわけですが、竹本さんは「音楽」をどういうものだと捉えておられますか?

世の中に、音楽があるのとないとでは全然違います。音楽で空間のセンスを感じたり、家族の雰囲気も穏やかになるし。気分上げたい時には上がる音楽を聞きますし。

そういう意味では、音楽って生活の中に絶対プラスのものを与えてくれるものです。

当たり前にそこにあるけれど、音楽がない世界って想像できないもんなあ。
今日はありがとうございました。


今を、「ととのえる」時間に。

この記事をリリースしようと準備を進めていると、新型コロナウイルスが世界中を襲った。音楽業界も、大きな打撃を受けている。今の状況に対する竹本さんの想いを聞きたくて、もう一度お話を聞いた。

ここ数ヶ月、コロナの影響でリアルな音楽の場が世界中から消えつつありますよね。
それについて、竹本さんのご意見を伺いたくて。

そうですね。これまでと同じ活動を続けていくことはできなくなりました。

どんな曲か?ではなく、インターネットを活用して何をするか?の方が重視されているとも思います。でも、こういう状態でアーティストとしての明確な成功例はまだ出ていないから、音楽をそれぞれの形で楽しむいい機会だとも思う。

それに、ステイホームで人と比べることも少なくなっています。音楽にいつも以上にピュアに向き合える時期なのかもしれません。

確かに、これまでは「ミュージシャンの成功」って大きな会場にファンを埋めて、音源やグッズをたくさん売るっていうイメージでしたが、今は大人数が「集うこと」自体ができなくなっていますもんね。

たとえコロナが収束しても、ライブハウスの数自体が減っているから、アーティストたちがハコを奪い合うでしょうね。なかなかライブが行えず、持ち堪えられないアーティストも多々いると思います。

確かにそうですね。そんな中、竹本さんはどんな活動をされていますか?オンラインでできることを模索されているんでしょうか。

インスタライブは頻繁にやっているし、ファンの方々のバースデーソングを作曲をしたりもしています。

でも、こんな時に「チャレンジすること」が正義だとは思いません。ピンチをチャンスにして、ビジネスで成功する人は一定数いるとは思うけれど、全員がそうでなくてもいい。

というと…?

たとえば目の前に助けるべき人がいる人、守るべきものがある人は、チャレンジしようにもできない状況にあると思うんですよね。今は、それでいい。今は、目の前のものに精一杯向き合うだけでいいんです。抗えない状況にいるのに、それに抗おうとする必要はないんですよ。

私もライターとしてのお仕事が減っていますが、家族のことを考えると外を飛び回る取材の仕事は積極的に受けられません。
でも竹本さんの言葉を聞いて、今は家族と向き合うべき時なんだと思えました。

僕もできることはやりつつ、「ととのえる」時間にしようと思ってます。気持ちが落ち込む日もあれば、前向きになれる日もある。そんな波の中で、バランスを整えていきたい。

先が見通せなくて焦ってしまいがちですが、その言葉で少し心が楽になりました。
竹本さん、今日は貴重なお話ありがとうございました。

ありがとうございました。


「好きなことで生きていく」

もうそろそろ、聞き飽きてきたフレーズかもしれない。「そんなの才能ある人しかできない」とか、「好きを仕事にしたら嫌いになってしまう」という反論さえも、聞き飽きた。

でも竹本健一さんのスタンスは、肩肘張らず、程よく力が抜けて自然体。素直に「ああ、こんな生き方いいなあ」と思える純粋さがあった。

「好きなことをやっている人って、自分の納得がいくハードルが自然と高くなると思うんですよね。自分の満足度を越えようとするだけで、十分にお金を払う価値のあるものが出来上がると思います。」

ふとした言葉だったけれど、これが真理なのだと感じたインタビューだった。

竹本健一(たけもと・けんいち)
2003年、3ピースバンド「PHONES」として東芝EMI からメジャーデビュー。
2007年、バンド活動休止後、ソロシンガーとして活動を本格化させる。
ソロとして、2009年05月17日、Mini Album『Self Portrait』のリリース以降、2010年02月18日、Studio Live Recording Mini Album「Taion」、2011年05月25日1st Full Album「ACTIVATION」など3 枚のMini Albumと、1枚のFull Albumをリリース。
2016年ゴスペラーズなど所属するプロダクションに所属後、シングル『明日に咲く花』、『隣で』、Mini Album『MILD LIFE』『LIMITED』そしてフルアルバム『TURN』をリリース。
また圧倒的な歌声とパフォーマンスから繰り広げらえるライブ活動も精力的に行うほか、HYDE、ナオト・インティライミ、Superfly、吉井和哉、CHARA、スキマスイッチ などのライブにも参加。 R&B、SOULを中心に独自の世界観を表現するシンガーソングライター。
作家としても、ATSUSHI (EXILE)、Crystal Kay、CHEMISTRY、倖田來未、ゴスペラーズ、鈴木雅之、テゴマス、ジャニーズWEST、中島美嘉、Riefu、など、様々なアーティストへの楽曲提供、アレンジ、プロデュースを手がけるなどマルチに活動を展開している。

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