をかしのカンヅメ Vol.5
公開日:2019_10_01

「全ての人に才能がある」ー彼女の歌詞に込められた哲学とは|作詞家・中村彼方

Guest:中村彼方さん / Text:中﨑史菜

原動力はワクワク

「言葉に関わりたい」という想いがあっても、作詞以外の選択肢もありますよね。作詞という世界にまっすぐ進むことに迷いはありませんでしたか?

なんの迷いもなかったです。

歌詞に関してはどんな仕事でも受けているんですけど、ほかのライティングの仕事を受けていたこともありました。新しい分野でも一回はやってみますね。でも大変だって思ったら、次からやらない

彼方さんにとっての「大変」とは何でしょうか?

楽しくない!めんどくさい!ってことかな。そしたら、次からやらない。だって楽しくない仕事ってやってもクオリティ下がりません?

著しく下がりますね(笑)

そのクオリティで自分の名前が出たら、マイナスプロモーションだから断ります。

でも楽しくなくても、めちゃめちゃギャラがよければ、そこにモチベーションがあるからやるし、ギャラは少なくても、取材として海外に行けるのであればやるし。

つまり、どこかにワクワクさえあれば大丈夫。私の原動力はワクワクです

仕事を受けるとき、かかる時間を考慮していますか?時給換算して、割に合うなあ、とか合わないなあ、とか。

考えないです。だってどれだけ時間かかるかわかんないもん。作詞でも、気分がのればすぐ書けるけど、のらなかったら全然書けないし。

私は集中力が続かないので、作詞って自分に合っているんです。めっちゃ集中したら2〜3時間でかけちゃうから、それくらいの分量じゃないとだめ。

私、集中すると時間が止まるんです。24時間仕事した感覚なのに2時間しか経っていない。それだけ集中が深く短く続くタイプであることを知っているから、それを意識してスケジュールを立てるようになったのは……やっと、最近です(笑)

スケジューリングのプロかと思いきや…ちょっと安心しました。
彼方さんはどんな風に歌詞を紡いでいくんですか?

歌詞を書くときは、まずインプットします。

ジャンル問わず音楽も聞くし、映画も見るし、演劇も見るし、思いついた方向に言葉を拾いに行く。カフェで隣の人の会話が入ってきたら、それもインプット。どんな情報もピンと来たら逃さないし、メモして、生かします。

つまり、偶然カフェで隣になった人になりきって言葉を発したり?

その人になりきるというよりは、その人を物語として捉えているのかも。こういう人生もあるんだ、とかこういう感覚で出来事を捉えるんだ、ということを歌詞にしていきます。

数分じゃ収まりきらないほどのストーリーを考えてから歌詞に凝縮します。インプットは、そのストーリーに登場する人物の性格とか出来事を作るためにやるんです。

自分から出てくる言葉だと主人公が自分の物語になってしまいますもんね。
インプットが多いからこそ、振れ幅があるもの、自分とは違う角度からの歌詞が書けるのでしょうか。

そう思いたいけれど、結局自分の芯は変えようと思っても変えられないし、むしろブラさずにやってるつもりです。

「全ての人に才能はある」「夢は絶対に叶う」っていう信念が私の中にあって、私が書く歌詞に出てくる登場人物はその思いを持っている人ばかりです。

彼方さんご自身が、「夢は絶対に叶う」という信念を持ち始めたのはいつでしたか?

自分自身が、作詞家になれたときからです。

私が作詞家になれたのは、楽しくて続けているから。周りから見ると「続けていること=努力」に見えるんですけど、努力はしていないんですよね。

私にとっては歌詞を書くこと、ある人によっては歌うこと、歌うためにボイストレーニングすること、料理を作ること…楽しいから続けられることがそれぞれあります。

何も努力しなくてもできることが才能と思いがちだけど、いつの間にか続けられちゃった!ということを才能と呼びたい

地球上に生きている人には全員才能があるけれど、それが見つけられていなかったり、目を背けていたり・・・そういう人たちが迷い道に入ってるだけなんです。

迷い道に入っている人に、アドバイスをするとすればどんな言葉をかけますか?

例えば、才能が今ある職業に当てはまらない人。自分の才能を生かす場が現状ないから、自分を信じられなくなってしまうのです。だから、自分の才能に合った職業がないのであれば、職業を作ればいいと伝えたいです。

それこそ「をかしのカンヅメ」で取り上げておられた資格コンサルタントという仕事も、本人はやっていてすごく楽しいけれど、きっと周りからは「将来どう役に立つんだ?」って言われたりしたと思うんです。でも好きだから続けて職業になって、その人が生きていくための糧になっている。

自分の才能のタネに気づけてない人もいると思うんです。それはどんなアプローチで見つかるのでしょうか。

楽しいと思う瞬間がどこかにあれば、それがタネのヒント

例えば「友達と遊ぶのが楽しい」と思ったのであれば、コミュニケーションをとるのが楽しいのか、その友達が言っていることが刺激的なのか…どの部分に楽しさを感じているのか見極める。

「一人でいるのが楽しい」のであれば、一人で本を読んでいる時なのか、一人で考え事をしている時なのか…そんなところからヒントを見つけていくとよいと思います。

人生本当に何も楽しくないと言うのであれば、それは鬱です。まずは病気を直すところから始めた方がいいと思います。それは心に負担をかけて無理してきたから、何も楽しくない状態なんです。そんな時はまず、何かが楽しいと思える状態に持っていった方がいいかもしれません。

ちょっとでも楽しいと思うことを分析していけば、そこに何かヒントがある、ということですね。

「こうでなければならない」っていう当たり前を押し付けるような教育を受けてくると、「これは楽しいと思っちゃいけない」なんて抑圧が心のどこかにあると思うんです。

それは一回ほぐして、なんでも大丈夫、何が楽しくてもOKだし、大学にいかなければいけないわけじゃないし、学歴がなくても生きていけると思って、今一度見直してみるといいと思います。

私も昔は、大学にちゃんといって、いいところに就職しないと負け組だと思っていました。そのルートから外れたら、豊かな暮らしが絶対にできないって考えを植えつけられてて。今思えば、それが本当に無駄だったな、と。

学歴は関係ないですもん。学歴じゃないということを強く言いたい。特に、教育関係者に強く言いたい!

今はインターネットを通じて、さまざまな価値観に触れられるようになったから、昔よりはましにはなってきたと思いますが…。

道が一本道しかないと思い込んでいる人、今でもいると思います。

そう。非常にもったいないと思います。

自分に合った職業がないとか、自分のやりたいことを仕事にできるのは一部の天才だけだとどこかで思って、自分の道を制限してしまうことってもったいないこと。

無責任に「絶対できるよ!」って言う必要はないけれど、「そんなことできない」なんて言葉で、人に対して言葉の呪いをかけるのはよくないと思います。

たとえ親が安定した道を進んでほしいと思って「そんなことできない」という言葉を発していたとしても、結局、その人の人生はその人が責任を取らないといけないですからね。

私のおかげでみんな幸せになってほしい

これから彼方さんが作詞以外でやりたいことはありますか?

ファンタジーを描きたい。

以前、絵本を書いてアプリを出したことがあったんですが、全くダウンロードされていないんですよね(笑)

今度は人目に触れる方法で出したいと言うか、みんなに伝わってほしいと思っています。

「伝わる」とおっしゃいましたが、彼方さんのツイッターにはたくさんのフォロワーがいらっしゃって、たくさんの方が歌詞以外の彼方さんの言葉を読んでおられますよね。
「読んでもらうこと」って彼方さんにとってどういう意味を持っていますか?

言葉はもちろんなんですけど、その中にある「夢は叶う」「誰にでも才能はある」という哲学を伝えることに重きを置いています。

物語でも歌詞でもツイッターの呟きでも、その2つが軸にあるんです。音楽を聴く人や私の文章を読む人に、何かいいことが起きたり、ポジティブな変化が起きることを求めています

ツイッターでは時折、おかしな呟き、突飛な呟きをしているんですけど、結局はそれを読んで笑ったりとか、いいことありそうと言う気持ちになってほしいからなんですよね。

彼方さんが使う言葉は、あくまで哲学を表現するためのツールなんですね。

「みんな幸せになってほしい」なんて言うと聖人みたいなんですけど、逆です。そこにあるのは究極のエゴです。

根底にあるのは「私のおかげでみんな幸せになってほしい」なんです。もっとエゴで、感謝されたい。それが私の存在意義なんです。

だって感謝されたら強くなれるんですよ。説得力あるし、もっとその人にとって私の言葉が響くようになるんです。

あ、宗教みたいですね。でも悪いようにはしないから安心して(笑)

私がフリーランスになった時、自分のモチベーションが承認欲求にあることに気づきました。
私は文章を書くことよりも、誰かに文章を読んでもらって「よかった」と言ってもらえることが好きなんだと思ったんです。
「感謝されたい、褒められたい」が強すぎる自分に、辟易してしまった時もありました。

それでいいんです!!

だって誰かを幸せにしたい時って、自分が幸せじゃないと、ないものを与えないといけなくなるでしょ?そうすると共倒れしちゃうじゃないですか。

でも、自分が超幸せで幸せが溢れてる時は、いくら幸せをほかの人に渡しても減らないんですよ。だから私は「まずは自分が幸せになるね。みんなはそのあとだから」って周りに言って、余裕が出た時に「ごめんね、あの時は全然渡せなかったけど、はい、幸せどうぞ」って周りに配っていく。

エゴのように見えて、ちゃんと周りのこと考えているから、エゴじゃない。順番がまずは自分で次が人、なだけ。そのほうがいっぱい助けられるから。

私、元気のない人とか不幸な人がカラッと変わる瞬間が好きなんです。メイクしてなかった人がメイクしてキラキラし出したり、ヨレヨレの服着てたお父さんが変身するテレビ番組も好きでよく観ます。私の言葉でも、人をガラッと変えたいなあ。

その変化は、彼方さんの見えないところで起こっていてもいいんですか?それとも、目にしたいと思いますか?

できれば目にしたい!そういう意味で、ツイッターはリプライとして反応が返ってくるのが嬉しいです。

ツイッターの呟きに対して、私のファンだけでなくて主題歌を書いたアニメのファンからも嬉しいリプライがあると、よかったと思う気持ちと、もっとこの人たちの心を打ってやろう、という気持ちになれます。

自分自身が感動するのも好きで、人を感動させるのも好きで。心が動いた時って、何かが変化するじゃないですか。心を動かすこと自体が好きなのかもしれません。

彼方さんのように知名度が上がると、「人に見られる」ことも多くなりますよね。どう感じながら活動しているんですか?

基本的に自分を取り繕わないようにしています

仕事で関わる人には、苦手なことも全部言います。「お金の計算、数字よくわかりません!」って不得意なことを出しちゃう方が楽なんですよね。「それは嫌です。やりたくないです」とも言うし。

その代わり、自分の得意分野では絶対の自信があるので、信頼に答えようと頑張ります。

では、ネットの向こう側にいる人や、彼方さんを曲を通じてしか知らない人とはどうでしょうか。

作詞家・中村彼方を間接的に見ている人は、歌っている人のファンやアニメのファンだったりするので、そもそも私を見ているとは思っていません。

アーティストや制作者、声優の方など誰かを経由して私を見つけてくれた人たちなので、裏方であることを忘れないようにしています。

作詞家は主役ではないんですよ。今は人の力を借りている、一緒に作っている、という気持ちが強いですね。

哲学者でありたい

彼方さんの職業は「作詞家」だと思うんですが、お仕事はなんですか?

考えたことなかったなあ…。

うーん。私は、「哲学者」でありたい

彼方さんには「必ず夢は叶う」「誰にでも才能はある」という絶対的な哲学があるというお話でしたよね。

哲学があるから、今は迷いがないんです。

順調にここまで来たように喋ってきましたが、今まで色々迷ってきて、ワクワクを感じられないのにやって身も心も削ってきた経験もあったから、やっとここにたどり着いたんですよ。

自分を信用できないときは、おみくじを引いたり、誰かに話を聞いてもらったりもします。

原動力が「ワクワク」だと気づけたのも大きいですよね。

自分の原動力が何かって人によって違うと思うんですよ。原動力が「不安」だという人もいます。そんな人は、不安を解消するために走り続けないければなりません。

「勝ち負け」が原動力になっている人もいる。でもその人は戦い続けなければなりません。

昔、私は「不安」を原動力にしていた時があって。でも「今仕事を断ったら仕事が来なくなるんじゃないか」っていう不安でやっていると、ずっと不安がつきまとうんですよ。

そうか。次の不安を作らないと仕事をする原動力がなくなってしまうからですね。

そう。仕事をするために、不安を呼んじゃうんです。だからこれはよくない傾向だと気づいて。

勝ち負けを原動力にしていても、負けるんです。だって勝ったら満足しちゃって仕事の原動力がなくなるから。ゼロより下の部分をキープして走り続けないといけないのです。

あるとき、「待てよ、私はなんのために生きるのだ」って考えた時に「ワクワク」を追いかけていこうと思って。ワクワクするためにやってる、ワクワクすることをやっていく。そうすると、スタートラインがすでにプラスになるんですよ。

そう切り替えた時に、全てうまくいくようになりました。

「ワクワク」をベースに考えると、どんどん楽しい仕事や出来事が舞い込んでくる、と。

「え、それ私やっちゃっていいの?」っていうくらい超ワクワクすることがくるようになりました。

やる気がないとか、これをやらないと自分何もしない怠け者になるとかって幻想でしかなくて。本当に超暇になった時にやりたいことがワクワクだと思うんですよ。

超暇になった時に、ずっと寝てる人っていないと思うんです。そんな時に「何かしなきゃ!」って不安になるのか、「これをしたい」ってワクワクすることをするのか、それをイメージすると自分の原動力がわかると思います。

フリーランスになってからは「不安」が原動力になってしまっていたことに気づかされました。
本日は貴重なお時間ありがとうございました!

こうやって、喋ることで気づくこともありますね。

ありがとうございました。


神様に取材をしたら、たくさんの金言がこぼれ落ちてきた。

それを一つひとつ、丁寧に拾い集めたインタビューだった。

自分の中のエゴに気づいた時。人に優しくできなかった時。誰かに嫌われた時…。

落ち込んでしまうけれど、全て彼方さんのポジティブな哲学で肯定していけそうだ。

まずは私自身が幸せになって、私の文章で、言葉で、人に幸せを配れるようになりたい。

取材を終えて、彼方さんと

中村彼方(なかむら・かなた)
長崎県佐世保市出身。
高校時代、フランスに留学。
成城大学文芸学部卒業。

2009年に作詞家KANATAとしてデビュー。現在は筆名を中村彼方に変更し活動中。
「けいおん!」のキャラクターソングなどを手掛けた後、少女時代の「GENIE」や「Gee」を筆頭にK-POPアーティストの作詞を数多く任される。
また「タッキー&翼」や、「ももいろクローバーZ」にも歌詞を提供し、J-POP、K-POP、アニメソングと、縦横無尽に幅広いジャンルで活躍中。
2014年、絵本プロジェクトを開始。
『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』では劇中歌の作詞のみならず、戯曲脚本も担当。

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