Guest:並木愛さん / Text:中﨑史菜

社会的強者に打ち勝ちたい

中﨑

こうやって聞いていると、漫画で出会っただけとは思えないほど洋服に熱中されてますよね。

並木

漫画は大きなきっかけではあったけど、思い返せば保育園児の時から洋服に対するこだわりは強かったと思う。もちろん毎日自分で着る服を選んでいたし。

中﨑

私と対照的だなあ。私は着るものはなんでも良かったし、何を着ていいか全然わからなかったから、母親に選んでもらってた。下山田は?

下山田

自分はワンピースを着せられそうになって大泣きしていたことはあるんだけど、思い返すとズボンが良かったのにワンピースを着させられたことが嫌だったのか、ワンピース自体が嫌だったのかはわからないんだよね。
服に対するこだわりはあったけれど、「洋服で自分を表現しよう」とかはなかった。ただ、パッと見て良いと思ったものを着てる感じ。COCOLULU(ココルル)っていうギャルブームがあって、地元みんな履いてたから流されて着てたこともあったけど…。

並木

懐かしい〜!ココルルパンツとかね。

中﨑

そういうブランド名にも疎いんだよなあ。中高生のときは休日も制服着てたくらいに、洋服に興味がなくって。

並木

それほどまでに、着る服に執着ないんだね。

中﨑

うん。だから、大学時代にも格好のことでいじめられてた。

下山田

いじめてはないっすよ。みんなアドバイスしてたの!

中﨑

確かに、「その服は本当にやめたほうがいい」って、何度か本気の目で言われたことある(笑)
どういう服を選べばいいのかなあ。

並木

自分が着たいものを着ればいいんだよ。ファッションは、着る人自身の哲学だと思うんだよね。服は、その人の人生観とか、価値観とかを全て表すもの。
一方で、単純に性別を二分した「女性性」「男性性」を洋服で語るべきではないとも思ってるの。例えば、スカートそのものが女性のアイコンになって、「スカートを履いている=女性」って図式が無意識にできちゃうじゃない?スカート履いてなくたって女性ですけどって思う。男とか女とかではなく、「人間」として見てもらえる服であって欲しい。

下山田

面白いですね。

中﨑

いまだに、「もっと女の子らしい格好しなさい」なんて言葉を聞くことあるもんなあ。
愛ちゃんがワンピースやスカートを着ない理由もそこにあるのかな?

並木

うーん…。ワンピースやスカートそのものへの違和感というよりは、「女性は家庭に入って、男性の一歩後ろにいるべきもの」っていうステレオタイプが嫌だった。それが影響して、スカートが従属の象徴に見えてしまっていたのかも。
私の母親はまさにそんなタイプ。”夫に尽くす良き妻”って感じが嫌だった。もちろん母親には感謝してるし、文句ひとつ言わずにそこまで人に尽くせるのは逆にすごいとは思うけど、私が思い描いていた生き方はそれではなかった。

中﨑

そんな家庭に育ちながら、「女性はそういうものだ」っていう考えにはならなかったんですね。

並木

性格かな。社会的に強いもの・メジャーなものに打ち勝ちたいって気持ちでここまでやってきた。こういう想いが、人生における私の価値観すべての根底にあると思う。

中﨑

固定概念に対する反発心が根底にあったんですね。

どんな服を選ぶか

中﨑

私が服選びで一番困るのは、「自分に似合う服がわからない」ってこと。
マネキンのコーディネートを見て「すごい可愛い!」って思って試着したら、自分には似合っていなかった、なんてことがよくあるんです。

並木

「似合わない」って思うのは、自分に自信がなくて着こなせていないってだけじゃないかな。自信がないと、服が身体に馴染んでこないから。

下山田

自分は、「似合う」って「自分のことをどれだけ知っているか」によると思うんですよね。史菜さんは、自分を知らないんだろうなって思う。

並木

下山田は史菜が自分を知らないと感じるんだ?

下山田

知らないから、その服装になるんだと思いますけど(笑)
例えば足が太いっていうコンプレックスがあったとして、それを見つめられるかどうか。確かに足が太いのは嫌だけど、「このズボンを履いたら居心地がいい」ってことがわかれば、それが自信になって、いい服を着られることにつながるのかなって思ってる。

並木

「自分を知る」=「自分にとって何が居心地が良いかを知る」ってことかな?
確かに、自分の好みにハマってこない服を着ること自体、居心地がすごく悪い。

下山田

でも史菜さん、「自分の好み」がないから、何を着れば「居心地がいいか」がわからないってことですよね?

中﨑

うん…自分の好みが明確にないから、「これを着ておけば大丈夫!」っていうコーディネートを毎日誰かに提示してほしい。
店に行って服を買うのは、疲れるから好きじゃない。「このトップスに、このパンツを合わせて、この靴を履いて、このイヤリングをつけてください。そしたら似合いますよ」って言われるのが楽。

下山田

うん、史菜さんはそういうタイプなんだと思います。それが結論だと思う。
「自分らしさ」ってなんだろうってこの1年間ずっと考えてきたんですけど、自分らしいっていうのは日々の選択の中で、どれだけ居心地のいいものを選べるかなんじゃないかと思ったんですよ。
でも、中には「居心地の良い選択肢」がない人もいることに気づいたんです。選択肢を持たないっていうのが、自分らしい人もいる。
単純に、洋服に選択肢を持たない人と、洋服にものすごく興味があって「他の人にも選んであげたい!」っていう人とをマッチングすれば、WIN-WINになれるんじゃないかな。

並木

なるほどなあ。じゃあ、私と史菜との出会いはWIN-WINな出会いだったってことだ。

自分の脚で立ち、自分の軸に沿って生きる

中﨑

私、服以外についてもこだわりがあまりないんだよね。何かを買うときに、とことん調べたりしないし…。

並木

でも、芯のない人には見えないよね。自分の意思はどこにあるの?

下山田

「意思がない」っていう意思なんですよ。それでもいいはずなのに、理解されないことも多いと思う。「なんでそこにこだわらないの?」って言われるから、「自分は変なんだ。自信ない」って思っちゃうのかもね。それはそれで史菜さんの芯として捉えていいと思う。

中﨑

愛ちゃんには、理解し難いかも。だって愛ちゃん、こだわりめっちゃありますもんね。

並木

そうなのよ(笑)
目指す先がないと、進めないタイプなんだよね。芯があって、それを軸に決めているから…。もしその軸がなかったら、どうしたらいいかわからなくなっちゃう。

下山田

わかるわかる。軸がない状態が気持ち悪いじゃないですか。自分に「もっと決めなくちゃダメ」って思うじゃないですか。でも、それが居心地のいい人もいるんだな、と最近気づきました。

中﨑

でも、どこかで軸を持った人が羨ましいんです。
例えば、愛ちゃんって洋服という軸をブラさずやってきてますよね。服の道以外の道を探してもよかったのに、愛ちゃんは服に関わる範囲で自分の道を模索した。
下山田も、「何のプロフェッショナルか」が明確だよね。それが羨ましすぎて、なんとなく自分が流されてきたように思えて。

並木

流れの中でも、史菜が何かを掴めてるって才能なんじゃないかな。
私の人生も、行ってしまえば流れ、受動的。自分からアクションは起こしてるけど、流れの中で転がって来た感覚しかない。
大抵の人はフリーでやろうなんて思えないよ、怖くてできないよ、でも、史菜はそれを選べて、今こうしてやっているわけじゃん。「何か」は見えてないのかもしれないけど、何かあるんだよ。

下山田

史菜さんの「何か」は見えないものなんですよ。見えてなくてもいいじゃないですか。羨ましいです。逆に。

中﨑

確かに、ゴールが見えてなくても走り出せるタイプかも。

並木

それってすごくない?

下山田

すごいよ!その方がいい。羨ましい。

中﨑

そう考えると結局みんな、ないものねだりなんだよね(笑)

並木

何かやる時、リスクとりたくないからやらない人多いけど、やってみるって何をするにも大事だと思う。スタートだけでも早く切れるのはものすごい才能。方向転換を繰り返せばいい。私もそんな生き方がしたいと思ってる。

中﨑

見切り発車してミスったことも多々あるけどね。

並木

人生って修正力だと思う。失敗って絶対起こるじゃん?想定外のことが起きた時に、いかに軌道修正できるかが大事。

中﨑

二人にとっての想定外って何?

並木

想定外しかないや。
例えば、デザイナーになれないって思っていたのに結局デザインしてるし、経営者なんて絶対無理だと思ってたけど、起業したし。

下山田

自分は結構想定内なのかも。いろんなリスク考えちゃって行動できなくなる。ビビリなのかな。サッカーやってても、人よりもリスク管理はしてる。絶対あそこでボールを奪われるから、2歩くらいみんなより下がっておこうって思う。史菜さん、わかりますか?(笑)

中﨑

4年間サッカーやってたんだからバカにしないでよ(笑)

社会の多様性の一部でありたい

中﨑

ほかに人生におけるターニングポイントってありますか?

並木

出版社に入ったことも、今振り返ってみれば大きい出会いだった。反発心がものすごく芽生えたこと、社会の仕組みが見えたことーーその経験が、「ai STANDALONE」をやっていく上での糧になってる。
今となっては、新卒でアパレル業界に入らなくてよかったとさえ思える。アパレル業界に入れたからって、自分の好きなブランドに関われるとは限らない。入ってたら洋服が嫌いになっていたかもしれない。そういう経験をすっ飛ばして、今、自分のブランドをやれているのはよかったな。

中﨑

これからについてはどう考えている?

並木

最近思い始めたことなんだけど、洋服で世界を変えたい
洋服を作るシステムを変えたいんだよね。食品ロスのように、洋服の大量廃棄が問題になってるの。環境にもよくないし、誰もWINになれない状態なんですよ。お金儲けが先行しているから、捨てる前提で作られている服すらあるって話を聞く。

中﨑

そんなに深刻なんだ…。

並木

「ai STANDALONE」は受注生産だから、ロスはゼロ。環境にもいいし、お客さんも余計なお金を払わなくていい。みんなにとってWIN-WINの仕組みを作っていきたい。
特に最近は、フォーマルの場所に来て行く服がなくて悩んでいたジェンダーマイノリティの人たちが、何人も「ai STANDALONEの服に救われた」って言ってくれたんですよ。マーケットとしては小さいかもしれないけど、洋服で悩んでいる人たちを救ってあげたいと思う。そして、「男性らしい」「女性らしい」を取っ払った、既成概念に縛られない服を作ることによって、社会の多様性の一部でありたいなと思う。

下山田

愛さんが「洋服はその人の哲学を表す」って話していたけど、自分の哲学や価値観を表現したくてもできない人ってたくさんいるんですよね。自分もそうだったし。デザインによって自分の価値観が排除されてしまうような感覚。
だからこそ、「ai STANDALONE」が選択肢を作ってくれることで救われるなって思う。「男性らしさ」「女性らしさ」に縛られない洋服、自分も着たいです!

中﨑

今日はアパレル界、スポーツ界という畑違いの二人とお話しできてすごく楽しかったです。ありがとうございました。

並木

二人の話ももっと聞きたいなあ。ありがとうございました。


ファッションに対する考え方も、これまでの生い立ちも、何もかも違うからこそ、その違いを楽しめた対談だった。

対談のあと、「ai STANDALONE」のスーツを着てトークイベントに登壇する機会があった。これまで、こんな時は何を着るかで憂鬱になっていた。でも今回は、頭のてっぺんから足の先まで愛ちゃんのコーディネート。なんだかいつもより背筋が伸びて、自信を持って話せた。

ああ、これがファッションの力か。

これからもカッコイイスーツを作り続けてくれるであろう並木愛さんから、目が離せない。

並木愛(なみき・あい)
1987年東京生まれ。
都立農業高校服飾科、杉野服飾大学卒。
卒業後、出版社に就職。
2017年に独立し、自らのブランド「ai STANDALONE」を立ち上げる。

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