小学校の時の将来の夢は「科学者」だった。卒業制作の書道作品には「前途洋々」でも「日進月歩」でもなく「科学の子」と書いた。
高校は理数科に入学した。でも国語の成績がよかったからなんとなく文系に進み「理数科文系」という矛盾に満ちた進路を選んだ。
文学部卒業後、出版社に入って編集者になろうと思ったが「お前は営業だろ」と言われ営業をした。それなりに、こなすことができた。でも3年間で会社を辞めたのは、「このままじゃいけない気がする」と漠然と思ったから。
退職後、アメリカでインターンをしながら進路を決めようとしたが、そこで将来が明確になることはなかった。わかったのは「自分の人生は自分が決めないと決まらない」ということだけ。
「こうなりたい」に邁進するでもなく、それどころか「こうなりたい」すらわからずここまで来た。これから、どう生きていけばいいんだろう。
そんな時、富山に住む中学生の従姉妹がこんなことを言い出した。
「大人になりたくない。大人になるのが怖い」
学校の勉強についていけず、友達も少なく、「ちょっと変わった子」だとレッテルを貼られてきた彼女。でも、私は彼女が羨ましい。得意なことも好きなことも明確だからだ。こっそり部屋を覗くと一人芝居をしているし、気持ちを込めて朗読するのがうまい。そしてアニメが大好き。
「大人になるのが怖い」
そう言われた時、
「そんなことないよ、自由で楽しいよ」
そんな言葉を言いかけて、なんて無責任なんだろう、と胸にしまった。
数学がわからなければ、数学が得意な人に任せて、自分の得意なことを仕事にしたらいいよ。
演劇の道に進んでもいいし、好きなYouTuberになってもいいじゃん。
いろんな言葉が浮かんだけれど、そもそも、学校の勉強がうまくできない自分の人生は、お先真っ暗だと思っている彼女に、こんな言葉が響くはずはない。
「これが好き!」と言えるものが見つからないのに「好きなことをして生きていきたい」と思っている私。
一方、好きなことがたくさんあるのに、それで生きていくイメージが全くできない私の従姉妹。
だから、その両方にとっての処方箋となるメディアを立ち上げることに決めた。
その名も「をかしのカンヅメ」
きっと全ての人に、人生の方向が変わったターニングポイントがあるはず。そんな出会い・出来事のことを「をかし」と定義して、「をかし」を集めてみることにした。
これを読んだ人が「こんな風に生きてもいいんだ」と人生の選択肢を増やすことができたら嬉しい。
そして何より、これは私のいとこと私自身がワクワク生きていくためのカンヅメだ。
中崎史菜(なかざき・ふみな)
1992年富山県富山市で真面目すぎる父と、社交的で多趣味な母との間に生まれた結果、自由奔放な頑固者に育つ
慶應義塾大学文学部国文学専攻卒。サークルと間違って体育会サッカー部に初心者ながら入部。
2018年に3年間勤めた会社を退職後、フリーランスに。
仏のような旦那と結婚し、富山と東京と金沢の3拠点生活中。