Guest:白木福次郎さん / Text:中﨑史菜

アートとスポーツは人生を豊かにする

バリアフリーなアート市「Ai どんどこ市」の様子

今、「アート・インクルージョン」というアートを通じた施設やイベントを運営しておられるまでの経緯を教えてください。

スペシャルオリンピックスの活動の中で障がい者の方が生き生き働く場所を作りたいと思うようになり、2007年に仙台駅前に就労移行支援施設を作りました。障がい者の方々の一般就労を支援するための施設です。

そして、翌年2008年に「長町遊楽庵びすた~り」という古民家レストランを開業しました。障がい者の方々が接客や調理を担当するレストランで、しっかり時給をお支払いして働いていただきました。現在は東北福祉大学の学食「TFU Cafeteria Olive」として営業しています。

「アート」よりも先に「食」に取り組まれたんですね。

そうです。

あるとき、「長町遊楽庵びすた~り」で音楽祭をやったんです。その時に実行委員から「音楽だけじゃなくて活動をアート全般に広げた方がいいんじゃないか」という意見が出て、2010年からアート・インクルージョンの活動が始まりました。

「アートを通して全ての人をやさしく包み込む社会をつくろう」というコンセプトで活動しています。

それまでスポーツに関わっておられた白木さんが、急にアートに舵を切られたというのが意外なのですが。

スポーツとアートって車輪の両輪だと、ずーっと思ってきたんです。障がいがある人にとっても、ない人にとっても、すべての人間にとってアートとスポーツは必要なこと。

もともと音楽や絵画を楽しむのは好きでした。自分にはそれを作り出す才能はないし、スポーツとは全く違うものなんだけれど…。両方とも自分の人生を豊かにするものだから、そのバランスが大事だと思っていたんです。

ただ生きていくだけだったらアートもスポーツも要らないと言う人も現実います。それはそれでいい。その人の生き方だから。

でも、障害のある人にとってはスポーツやアートに関わる機会が極めて少ないので、そういう場を提供するのは非常に大事だと考えています。

なるほど。アート・インクルージョンの活動をもう少し詳しく教えてください。
フリースクールなどではなく、「就労支援事業B型事業所」という形をとっておられるんですよね?

そうです。就労支援事業B型事業所である「Aiファクトリー」は2013年から始動しました。障がいのある人が働いて、賃金がもらえる施設です。

「Aiファクトリー」には絵を描くなど自由に創作できる時間があって、その中から作品に出来そうなものがあれば販売に向けて動いたり、みんなで歌の練習をしてステージで発表できるようにしたりしています。

プロのアーティストが歌やフェルトの羊毛作りなんかを教えてくれる機会も設けながら、仕事としてアートに取り組める環境づくりをしていくわけです。発表の場がないと知ってもらえるきっかけがないので、そういうサイクルを大切にしています。

アート・インクルージョンのメンバーが描いたイラストをTシャツにして販売

なるほど、ちゃんと収益化できるような仕組みができているわけですね。
アートに値段をつけるってすごく難しいことだと思うんです。「アート・インクルージョン」は「就労支援事業所」でありながら、仕事になりにくいアートを生業としている。それを成り立たせておられるってすごいことですよね。

アート・インクルージョンは、平日は障がい者の仕事場「Aiファクトリー」として、土日は”お絵かきカフェ”や”誰でもクリエイター”といったテーマのアートイベントが行われる場所「Aiスタジオ」として、そしてライブや個展を開催できる「Aiギャラリー」というレンタルスペースとしてご利用いただいています。

いわゆる障害手帳の有無にかかわらず、地域の人たちがゆったりと好きなことをして過ごせる場所を提供したいと思い、地域に開いているんです。

アート・インクルージョンを立ち上げられてから7年。ここは白木さんにとって、どんな場所になっていますか?

定期的に、ダンスや音楽などのパフォーマンスを地域の皆さんにお見せする機会を作っています。そんな場では、障がい者の方たちは自然とその輪の中に入っていける。その自然さがなんだか不思議なんです。

私なんかは恥ずかしくてなかなか入れない。でも、そんな人の目は関係なく、障がいを持った人たちは身体が自然と動いちゃう、そんな感じがするんです。

私たちのインクルージョンの真髄っていうのはそこにあるんじゃないかと思うんですよね。自分の思うままに身体を動かすことができる環境。さっきもここで思うがままに踊っている方がいましたけど、ああいうのを見ると嬉しいです。

これからどんな展望を?

これからは活動をむやみに拡大しないで、丁寧に、大切にしていきたい。拡大するとどうしても雑になる。そうならないようにしたい。

今までは自分が中心になって、何でもかんでもやっていたけれど、一緒にやっていく仲間が増えてきたので、随分と任せられるようになってきました。今では僕がお客さんみたいになっちゃってる(笑)

そんな組織って、理想ですよね。ただ、仲間が増えるとより一層多様な意見が出て、まとめるのが大変だと思いますが、いかがでしょうか?

いろんな意見が出ないとエネルギー生まれませんよね。トップが言ったことをみんな「はいはい」って聞くような組織はだめです。全然違う意見が出てくるけれど、何が良い意見かっていうのはみんなわかるんですよ。

わかるんですか。

わかりますよ、誰だって。

若い時はね、自分の意見を通したいっていうのはありますよね。でもこれだけ歳を重ねてくると、「ああ、あの人の意見のほうが良いな」ってわかります。お金が絡むことはそんな単純にいかないですが、妥協点もみんなで話し合う中で見つけられると思っています。

現在はメンバーが10名ほどに増えましたが、会議ではメンバーから自発的に意見が出てくるようになったんです。「これ、やりましょう!」っていう前向きな意見がどんどんね。

メンバーはどんどん入れ替わっていて、長くても2年ほどなんですが、みんなとても優秀です。
人が入れ替わるということは、自分の想いを受け継ぐのに苦労するということでもあります。ここまで体制を整えるのには、そりゃあ苦労はありましたけれど。

アート・インクルージョンさんの事務所は、仙台の中心にありますよね。立地にはこだわっておられるんですか?

そうですね。駅前にも100坪の事務所があるんですけど、「みんな通いやすい」「人が集まってくる」という点を重視しています。コストがかかっても、それを上回る収入があればいいっていう考えです。

国の予算と、イベントの収益、事務所内のスペースへの出展料などで回しています。

この場所が駅前や商店街の中にあることで、ある程度の「来客」が見込めるから、ここで歌ったり出店したりすれば収益が見込めるんですよね。そういう意味で、立地はとても大切。

生きがいを見つけられる場所をつくりたい

現在、白木さんはアート・インクルージョン以外の団体の代表もされているんですよね?

はい。代表を勤めているのは3つです。アート・インクルージョンと障がい者の方が働くレストランを運営しているNPOポップの森、そして病気や後遺症があっても、地域で安心して暮らせるよう活動する気仙沼の一般社団法人コ・エルですね。それ以外にも役員をやっている組織がいくつかあります。

いろんな組織に関わりながら、白木さんが目指しておられるものはなんでしょうか。

障がいがある人が働く場所や生きがいを見つけられる場所、チャンスを作りたいんです。僕が中心になってやるというより、地域の人が自然と手を差し伸べたり、新しい場を作っていくのが理想です。

本日はイベント運営でお忙しい中、ありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。


会った瞬間から、そのエネルギーの大きさに圧倒された。取材中もひっきりなしにかかってくる電話に応じ、スタッフからの相談に答え、自分自身も走り回る…

「ワークライフバランス」なんてよく言う。でも、白木さんからはバランスを取ろうとか、プライベートの時間を大切になんて気持ちは一切感じられないし、ワークライフバランスから程遠い存在に思えた。それでも、ワークがライフそのものになっているかのように感じられて、そのイキイキとした生き方はとても眩しく、うらやましかった。

年齢なんて関係ない。

まだまだ、やれることはある。

そう鼓舞してくれたインタビューだった。

白木福次郎(しろき・ふくじろう)
1947年(昭和22年)仙台市生まれ。
株式会社白木屋ならびにオフィスベンダー代表取締役(現在顧問)を歴任中、
1995年知的障害のスポーツボランティア組織であるスペシャルオリンピックス(SO)の活動に参加、知的障害のある方と初めて出会う。
SON・宮城の設立に参加、事務局長を経て3代目の理事長に就任、現在、顧問。
1999年アメリカで開催のスペシャルオリンピックス世界大会に日本選手団事務局長として派遣される。 その後、スペシャルオリンピックス日本専務理事を経て現在、「公益財団法人スペシャルオリンピックス日本」副理事長(現職)
2007年、「特定非営利活動法人ほっぷの森」を設立、高次脳機能障害や知的障害、精神障害のある方の就労支援に取り組む、設立から現在まで理事長を務める。
2012年12月にアートを通して全ての人を優しく包むというコンセプトのもと「一般社団法人アート・インクルージョン」を設立、現在まで代表理事を勤める。


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