Guest:木村あきひろ / Text:中﨑史菜

◎性格が合わなすぎる国会議員の秘書

ーーまだ「政治」の話が出てきていないのですが…(笑)。

社会人5年目頃に、そろそろ政治の道に進もうと思い始めました。ファーストステップの踏み出し方がわからず、政治のことを学ぶために松下政経塾へ入塾しようと考えました。

ーー松下政経塾といえば、パナソニック創設者である松下幸之助氏によって作られたリーダー育成塾ですよね。

ところが落ちました。「俺、ここでも受からないんだ…」って思いましたね。

ーー3回目の不合格ですね…。

受験までにお世話になった方々に政経塾が不合格だったと報告していたところ、そのうちのおひとりから2日後に「辻清人さんという国会議員の秘書は興味ないか?」とお声がけいただきました。当時、築地市場移転問題が起こっていた中央区や、台東区、文京区、港区からなる東京都第二区(※)選出の国会議員でした。お会いしたところ、海外経験のある共通点や40歳という若さに惹かれて秘書になることを決意しました。

会社を2020年2月末でやめて、3月から文京区担当の国会議員秘書となりました。ちょうど、コロナウイルスが蔓延し始め、在宅勤務が推進されるようになった頃でした。

(※2022年以降、第二区は中央区、台東区のみとなった)

ーー国会議員秘書のお仕事はいかがでしたか。

当時の私は辻代議士の言っていることが理解できず、支離滅裂なことを言っているように感じて、実は3ヶ月くらいで辞めようと思ったんです。

人に相談しても、多くは「議員でいろいろあるから仕方ないでしょ。嫌ならやめちゃえ」と言われました。でもある時、前任の秘書の方に相談したところ「辻代議士を言い訳にしないで、自分を主語にしたら?国会議員秘書といっても色々な仕事や職権があって、地元の方々を直接助けることもできるし、感謝もされる。一旦、辻代議士のことは忘れて、木村くんが自分が国会議員の秘書として何ができるのかを確かめてから辞めたら?」と言われまして。

そのアドバイスをもらってから、 辻代議士のことだけに集中するのではなく、もっと広い視野で物事を考えられるようになりました。 辻代議士は常々「間違っていると思ったことは伝えてほしい」と言っていたので、正面を切って話すようにしたところ、次第に、辻代議士が何を考えて発言していたのかわかり始めました。辻代議士のことも好きになってきて、僕はこのスタンスで辻代議士と文京区のために働こうと思えるようになってからは、自分も楽になりましたね。

秘書をやっている間も、自分が政治家になって教育を変えたいという気持ちに変わりはありませんでした。また、自分の地元である目黒区から立候補することも決めていました。辻代議士も若い議員が出ることは喜んでくれましたね。

国会議員秘書時代(上段右:木村さん)

ーー国会議員の秘書とは、具体的にどのような仕事をされるのですか。

コロナ禍以前は、年末年始の何百件もの集まりへの参加、地域の御神酒所まわりや挨拶回り等、本当に様々あったようです。しかしコロナ禍では、挨拶回りをしてもなんで来たんだと怒られることがありましたし、パーティーに代わるイベントや方法を考えたり、様々な業界や個人からコロナ関連の陳情を受けたりしました。特殊な時期の秘書を経験しましたね。

事務所に秘書は数人いるんですが、僕の秘書としての役割は、難しいことは即答で無理だと言う、でもやると決めたらスピード感を持ってやることでした。僕とは全く違うタイプの秘書が事務所にいて、それがうまく噛み合っていいチームができていたと思います。

ーーご自身の選挙の準備は?

選挙1年前に辻事務所を辞めて、目黒区で選挙の準備を始めました。選挙まで1年間の仕事をどうしようかと悩んでいたところ、小さい頃から家族ぐるみで付き合いのある方々から財務経理と営業の仕事をいただきました。今は2社掛け持ちで、1社で週2、もう1社で週3勤務という珍しい働き方をしています。

◎不安もある、人との関わりで傷つくこともある

2023年4月に目黒区議会議員選挙に出馬する

ーー出馬にあたって、自民党から出馬された理由を教えていただけますか?

教育関連の法律を変える力があるのは、今のところ自民党だと判断したからです。若いうちに自民党議員になり、力をつけて発言力を高めようと思っています。また自民党といっても様々な方々がいて、考え方もそれぞれです。その中で自分はどのような人と出会い、どのように考え方を形成していくんだろうという気持ちもあり自民党にしました。

区議会議員になったからといって根本から地域を変える力はないし、国会議員だと約700人もいるので教育を変えたいと1人が言っても国を動かすのはなかなか難しい。大臣になれたとしても、教育を変えるのが難しいことは、国会議員秘書を経験して痛感しました。例え国会議員になれたとしても、国が変わるのは早くて僕の孫世代くらい。3代政治家を続ければやっと変えられるかもしれないけれど、息子や娘が僕と同じ考えを持つとは限らないですからね。

日本は前例主義が強い文化があるので、まずは目黒区から新しい前例を作ろうと思うんです。その一歩として、区議選に出て地域のために尽力します。「目黒に生まれ育ってよかったな」と思える環境にしたい。教育を受けている中で経験したことがきっかけとなって、子どもたちが胸を張って「自分はこうなりたい、自分の夢はこうだ」と言える状態を作りたいんです。

ーー木村さんにとってのスタートラインはまだ先にあるのですね。それだけ大きな変化をもたらしたい、と思われているのであれば、無所属で出馬される選択肢もあったのではないですか?

自民党への嫌悪感やしがらみの強さから、無所属で立候補する方も多いですよね。でも、自分がやりたいことをやるための近道なら、党の中で多少足を引っ張られてもいいと思えたんです。足を引っ張られるのが自分ならばいい、未来の子どもたちがその犠牲にならなければいい、と。

言い方は悪いですが、無所属で立候補する方が楽なことも多いんです。自民党から出馬すると、何かをやらないといけないけれど、輪を乱すような大きなことをやろうとすると叩かれる。その難しい塩梅の中で僕はやりたいことをやっていくつもりです。

やることをやるのみ、突き進むのみです。ただ、自信があるわけではありません。半年前は、年齢的に若いし、自民党だし大丈夫だろうと思っていたけれど、選挙が近づけば近づくほど不安はどんどん大きくなっていきますね。

秘書の時は辻代議士という他人の選挙を支える立場だったので、良くも悪くも客観的に周りを見ることができ、情勢や雰囲気を肌で感じることができたんです。直接僕に悪口を言ってくる人もいましたしね。でも自分のこととなると全くわからないんです。

ーー私は東京生まれではないので、東京の「地元」の感覚があまり想像つかないのですが、地元で選挙戦を闘う強みはあるのではないですか?

東京だろうが地方だろうが、人は人なので「地元」の感覚はそんなに変わらないと思います。基本的に人と人との関係ですからね。「隣の家のおじいちゃん」が「隣のビルのオーナー」になることは多くありますが(笑)。

でも全員が知り合いではないですし、政治に興味のない人もいます。それに、応援はするけど公には言えない…とか、票は入れるけど事務所の手伝いはできない…ということも頻繁に起こります。地元だから強いというわけではないんです。政治ってまだ日本にとって浮いている存在というか、関わっている人は一角にすぎないということを痛感しています。

地元の御神輿

ーーこれまでお話を聞いていると、人との出会いが木村さんの人生を大きく助けてきたという印象がありますが、政治家になると人との関わり方は変わってくるのでしょうか。

違うフェーズになっているのは確かです。国会秘書の経験をしていてよかったと思いました。そうでなければ、いちいち「裏切られた」と傷ついていたかもしれません。

政治家って聞くと図太くて、やっていることは派手で、ドラスティックなんですけど、僕の心の中は心配症でナイーブなんですよね。特に昔から知っている地元の人たちから、期待していた反応がなければものすごく落ち込みますしね。政治家はいい意味でも悪い意味でも、ハートが強くなるんだと思います。人に期待した時のダメージが大きいから、期待もしなくなるのかもしれません。

ーーそんな様々な不安の中で、政治家にしては若い30代で一歩を踏み出されるわけですね。今日は幼少期からじっくりとお話を聞かせてくださりありがとうございました。

この記事が自分が一歩踏み出すタイミングでの記録として残ればいいですし、読む方にこんな人生もあるんだと思っていただけたら嬉しいです。ありがとうございました。


飾らず、ありのままに、自分を語ってくださった木村さん。その正直さと無邪気さが、友人をつくってきたのだと感じた。

木村さんは「勉強はできなかったけれど」と何度も繰り返した。でも、それ以上に自分の強さを知っていた。自分でやりたいことをやるための方法を考える力、友をつくる力、手を差し伸べたいと思わせる力、とりあえず一歩を踏み出してみる力、挫折を挫折としない力…。

木村さんは、木村さんらしい頑固さで、政治家への道を進み始めたところだ。


木村あきひろ(きむら・あきひろ)

1991年東京都目黒区生まれ。

目黒区立下目黒小学校、目黒区立第三中学校(現大鳥中学校)を卒業後、The Northwest School (アメリカ)へ進学。
Esquimalt High School(カナダ)を経て、埼玉大学教養学部を卒業。在学中に中国留学も経験。

AIG損害保険株式会社、PwCあらた有限責任監査法人で営業や監査、プロダクトマネージャーを経験し2020年から衆議院 辻清人事務所 公設秘書(東京2区)を務める。

2023年4月、目黒区議会選挙に出馬予定。趣味は素潜り。

HP:https://www.akihero.tokyo/


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