会社に勤めていた時、仕事に追われる毎日の中で「何かやらなければ。勉強しなければ。」と急に焦り出し、資格勉強を始めたことがあった。
290,000円を投資し大量に送られてきた「中小企業診断士」のテキストは今、(中も外も)綺麗なまま本棚に飾られている。捨てるに捨てられぬ。欲しい人がいたら是非とも連絡してほしい。
資格ひとつでこれだけのハードルなのに、資格を600個持つマニアがいて、しかも同じ富山出身だと聞いて会いにいくことにした。
どこからそのモチベーションは来るのか、なぜ資格を取り始めたのか、いつまで取り続けるのか・・・疑問は尽きない。
資格との出会い
鈴木さん、名刺が・・・ジャバラみたいになってますね。笑
これまで取得した資格を全部載せてますからね。現在、597個です。(取材当時。2019年5月現在は626個)
597!!「気象予報士」って相当大変なやつですよね・・・あ、私が断念した「中小企業診断士」もある。「潜水士」「離婚式プランナー検定」に「お好み焼き検定」・・・いちいち面白い!!
本当にいろんな資格があるんです。今週末は「すみっコぐらし検定」を受験しますよ。
そんなのもあるんですね!
将来の夢が「資格コンサルタント」っていう子供にはこれまで会ったことがないんですが(笑)、鈴木さんの小さい時の夢はなんだったんですか?
大学入るまでは特に「なりたいもの」なんてなく、なんとなく勉強していました。
大学に入学した時は、一応研究者志望だったんですよ。東京大学理学部化学科に行ったんですけど、結局研究者の夢は諦めてふらふらした結果、今にたどり着いた感じです。
理系に進んだのも漠然と「研究職になれたらいいな」と思ったから。実際、研究職の仕事がどんなものか知りませんでした。
小さい時から資格を取るのが好きだった、とかそういうわけではないんですね。
人並みに英検とか漢検を受けましたけど、趣味レベルで取得するようになったのは大学に入ってからです。
大学ではサークル的なものとして、東大生協の学生委員会という組織に所属していたんですが、大学2年の秋ごろから、生協の広報誌に「資格道」という連載記事を書くようになりました。
もともと先輩がやっていた不定期の企画で、バックナンバーを見て「昔こんな企画があったんだ。おもしろそうだからやってみようかな」と。本当たまたまです。その時から毎月欠かさず資格試験を受ける生活が始まりました。
ほぼ毎週末資格試験という生活を、15年以上続けておられることになりますね。
大学3年生の時、「東大生協×リクルート」のメルマガサービスが始まったんです。東大生って、就活をナメてるんですよね。そんな東大生に対して、早いうちから「リクナビ」の認知度を高めるのが狙いでした。僕は生協の学生委員会にいたので、メルマガの資格コンテンツを作るときに声をかけてもらって。
今だったら年齢関係なくユーチューバーやライターやる人はたくさんいますけど、当時はWEBメディアもまだ一般的ではなかったので「学生でもこんなことができるんだ」と驚いたのを覚えています。
東京ではどんな大学生活を送っていましたか?
上京した頃はカルチャーショックの連続でした。田舎では自転車通学していたのに、いきなり毎朝満員電車に40分乗ること自体、かなりの変化でしたし。
東大に入ると周りがすごすぎて「こいつらの中で結果出していくのはきついな」とか、「自分なんかが何をできるんだろう」とか思っちゃって。資格取得を現実逃避の矛先にしていました。
人生で一番大変な一年だったと思えるのは大学3年の時。毎日1〜2限は授業、3〜4限は実験。勉強に実験に予習にレポートにテストに加えて、夜は週3回ジョナサンでバイト、週末は資格試験。
それに比べれば、進学した大学院とか会社員生活は全然楽でしたね。
そんな毎日だったから、卒業するために最低限のことはしつつも、研究職に進む気をなくして将来どうしようかと迷って。
聞いているだけで辛くなりました。
そんな風に悶々としながらも、とりあえず単位をとることを目標にやっていました。
4年になって、公務員になろうと思い文系の枠で国一(国家公務員1種)と東京都・石川県の試験を受けたんですけど、全部落ちました。想定がかなり狂いましたね。
資格コンサルタントの鈴木さんから、まさか「試験全滅」のお話を聞くなんて!
理系の道を諦めた時、その次の選択肢が公務員だった理由はなんですか?
「無難なとこにしとくか」ぐらいの気持ちです。
今にして思うと、特に行きたい業界ややりたいことがなかったからだと思います。
公務員試験に落ちたあと、たまたまその年に東京大学に新設されることになった「公共政策大学院」を受験しました。
”官僚養成コース”のような大学院だから、そういうところに行っておくのもいいかなと思い入りましたが、ここでも「なんか違うな」と感じて。
「公務員」もしっくりこないとわかったあとは・・・?
資格を仕事にすることを具体的に考え始めました。国家公務員やりながら副業のように資格の仕事、というのはやりにくいだろうなと思って。
だからその時点で官僚になるのはやめ、資格にちょっとでも関連する業界への就職を考えて「人材ビジネス業界」に行き着きました。
なるほど。そこで初めて「資格で食っていこう」と思われたんですね。
「ケイコとマナブ」をやっているリクルートがいいかなと思ったんですけど、結局「オー人事」で有名な人材派遣会社のスタッフサービスから早々に内定が出て入社しました。
就職と同じタイミングで、総合情報サイト「All About」の資格ガイドも始めました。でもサラリーマンをしながら月4本のWEB記事執筆は大変でしたね。しかもスタッフサービスからは「副業はダメ」と言われていたので、じゃあノーギャラでやりますと言って承認してもらって。後々絶対に役立つからタダでもやる価値があると思いやっていました。
月4本をノーギャラで…。しかも、資格試験もあるんですよね?
そうです。結構大変でしたよ。
スタッフサービスで人材業界のことを勉強しながらいつか独立しようと思い働き、結局3年で辞めました。
会社を辞めた3年のタイミングって何があったんですか。
当時リーマンショックで人材業界全体が大打撃を受けて、会社が早期退職を募っていました。
ちょうど体調を崩して3ヶ月ほど休職していて、そこから復帰したタイミングで上司から「今の状態だと鈴木くんを今の部署に残すことはできない」と言われて。
異動するか辞めるか2択だったので「これもタイミングだ、思い切って独立しよう」と決めたんです。
だからあらかじめ3年で辞めて独立すると決めていたわけではありません。
リーマンショックという抗えないもの、そして身体の不調が重なったタイミングだったと。
今執行役員をやっている人材ベンチャーの「株式会社ちかなり」に移るまでは、体調も完全に回復していなかったし、派遣社員として日銭を稼ぐような生活をしていた時期もありました。
でも「All About」の資格ガイドをしているというだけで、社会人としてはペーペーの僕にいろんなところから取材依頼が来ていたんですよ。一番最初は「週刊アスキー」、そして女性誌や資格関連のメディアなどから取材を受けていたので、会社を辞めた頃には資格の専門家として3年の実績がありました。「これならいけるかな」という感覚が自分の中にもあったので思い切って辞められたんだと思います。
苦しい時期はありましたが、今はなんだかんだ資格という趣味を仕事にできていますね。でも計画的にここまできたわけでは全くないんです。
そんな「趣味を仕事にした毎日」って、どんな生活なんでしょうか。
基本的に毎週日曜日は資格試験で、たまに土曜日や平日も試験。
会社に行くのは週1程度で、他の日は取材対応とかの予定が適宜入ります。
予定がなければ本当に何もなくて、寝たり、カフェで勉強したり、執筆したりと生活のパターンはグチャグチャですよ。
資格は取るより作る時代
資格を受けるだけでなく、資格本を書いたり、ラジオやテレビに出たり、「資格・検定ラボ」などのサイト運営をしたり。 さらに最近では、資格を作る仕事にも携っていらっしゃると聞きました。
資格を取るということは、言ってみれば資格試験というサービスの「いち消費者」なわけです。
消費者としての動きをしている中で「自分が作る側にもなれるじゃん」と思えたのはパラダイムシフトでした。例えばアニメが好きな人が「観るだけじゃなくて、作る側にいくのもありなんだ」と発想の転換ができた感じ。それはビジネス的な嗅覚だったのかも。
パラダイムシフトが起きたのは何年前くらいのことですか?
明確には覚えていないのですが、個人事業主や経営者の人脈ができはじめて、事業を作る側の感覚を知ったのがきっかけだったと思います。
昔と比べたらYouTubeにツイキャス・・・自らメディアやビジネスを作る側になることが普通になってきましたね。
消費者から生産者になられて一番大きな発見は何でしたか?
「お金」の動きが見えたことですね。結局なんだかんだ言って重要なのは「お金」を回す感覚や、それを仕組み化することだと。うまいことばで騙されないような知識もつきました。
そして作る側は単純に消費するよりも楽しいですね。
これからの時代、資格は取るより作る時代。資格を作ることで新しい枠組みも作ることができるんですよ。例えば「野菜ソムリエ」という資格がありますが、今までなかったものを作ることで、多くの人を受け入れる枠組みができるんですよね。
確かに、それに向かってみんなが勉強するわけですもんね。
何か広めたいものがあるんだったら「〇〇スペシャリスト」みたいな資格を作ればいいんですよ。
資格を作ることは人材育成にもなるし、受験料収入にもなるし、プロモーションにもなるわけで、作ったもん勝ち。人やスキルを主体とした新しいサービス・価値を作ることなので、面白いです。
そうした事実に気付き始めた人が増えてきたのか、近年は本当にさまざまな資格・検定が新しく誕生していますが、このまま進めば、日本人の知的レベルが上がっていくという効果もあるんじゃないかと思ってます。新しい資格ができたら、その専門家やその分野に詳しい人がどんどん増えていくでしょ?
地銀に勤めている友人が富山のご当地検定「越中富山ふるさとチャレンジ」を必ず受けないといけない、と言っていました。ふるさとでも知らないことがたくさんあって、しかも結構難しい、と。
そういった地域の資格は、地元企業が「従業員は受験必須」としているところも多いみたいだし、町おこしにも繋がります。ただ、仕組みや広報の仕方をしっかり考えないと、資格制度の運営はうまく続かないですけどね。
「京都・観光文化検定」はかなり戦略的にやっている印象です。例えば、試験の時期は12月なのですが、京都に主要な祭りや催しがない時期にあえて設定することで、「何もない時期にも京都に来てもらう」という意図なのだそうです。
さらに出題テーマが毎回変わるんです。例えば2級試験だと、昨年は「明治150年」というテーマから10問。一昨年は尾形光琳の「琳派」から10問。全問題のうち約半分は毎回異なるテーマに沿って出題されるので、何回受けても楽しめる。
また、問題を簡単にし過ぎると1回受けて受かったら満足しちゃうので、難易度もよく考えて設定しないといけません。ちなみに昨年の金沢検定はめっちゃ難しくて、初級で合格率5%、中級1%、上級は合格者なし。そういうレベル感にすると、「簡単に受かったから来年はもういいや」となってしまう人は減りますよね。受かるまで受け続ける人がいるからあえてそんな難易度設定にしているんだと思います。
リピーターは確かに大事ですね。
漢字検定1級はまさにリピーターが多い検定。実はすでに1級に受かってる人が何回も受ける試験なんです。
資格試験をいっぱい受けていると「こういう工夫をすれば、多くの人に受けてもらえる試験ができそうだ」というノウハウがたまっていきます。「級」をできるだけ多く作ったほうが、単純に受験料は2倍、3倍とれるとかね。笑
確かに〜笑
資格の受験料ってどう設定されているんですか?
一般的な検定の平均をとると5,000円くらいですかね。
これも設定した者勝ちというか、高い方が“それっぽさ”が出ますよね。受験料はあえて高く設定した方が、受ける人がむしろ増える可能性もあるんです。
確かに受験料1,000円の資格は誰でも取れそうだし、無理に取らなくてもいいやって感じてしまいます。
骨董品や美術品と近くて、高い方が価値があるように見えますよね。
「野菜ソムリエ」の受験料は15万円くらいしますが、それでも受ける人はたくさんいて、むしろ高いからこそ受ける人がいるのでしょう。